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元はユダヤ教だった!?初期におけるユダヤ教とキリスト教の関係
キリストが地上に人となって来られたことは、神様の計画の中で最重要ポイントでした。
聖書の約束はイエス・キリストによって成就され、新しい契約がもたらされました。
救いの奥義が明らかにされ、福音はエルサレムからユダヤ、サマリアの全土、地の果てへと宣べ伝えられ始めました。
神の民として祝福を受けてきたイスラエルの生き残りであるユダヤ人だけでなく、その他の人々にもキリストのニュースが伝えられていきました。
こうした状況の中で、ユダヤ人(ユダヤ教)とクリスチャンの関係はどうだったのでしょうか。
1世紀、ユダヤ国はローマ帝国の植民地でした。
ローマ帝国は黒海周辺の広大な地を支配していました。帝国内は治安がとても良く(パックス・ロマーナ)、人々は旅行や貿易を安全に行うことができました。
ユダヤ周辺ではギリシャ語が公用で使われていて、ヘレニズム文化(ギリシャ哲学、教育、経済、政治)の多大な影響を受けていました。
ローマ人はどの宗教に対しても寛大でしたが、ユダヤ人は地理的、社会的重要性、神殿、儀式や伝統的な指導者構造を失ってしまい、アイデンティティが揺るがされるようになります。
ユダヤ人は神に選べれた民として強い民族的、宗教的アイデンティティを保ってきましたので、これは大変な事態でした。
ユダヤ人は多様に、このヘレニズム文化に反応しました。妥協した人(取税人など)、熱心党員、パリサイ派、人里離れたクムランに篭ったエッセネ派などがその結果です。
ヘレニズム文化を受け入れるかどうかは重大な問題でした。
ユダヤ人はユダヤ領内だけに住んでいたのではありません。例えばパリサイ派だった使徒パウロはキリキアのタルソス出身でした。ユダヤ領外に住んでいたユダヤ人はヘレニズム文化を受け入れる傾向がありました。
一方のアンチ・ヘレニズムで有名なのはマカバイ戦争です。紀元前141年(このときはローマ人に支配される前でしたが)、マカバイと彼の息子たちが支配者に立ち向かい、戦争で独立を勝ち取りました。
使徒の働き6:1を見ると、ユダヤ人クリスチャンの中にも、ギリシャ語を使う者とヘブル語を使う者との間に争いがあったことが分かります。
このような状況のただ中で、イエスは公に現れました。
彼とその弟子たちは取税人と飲み食いし、安息日に病人をいやし、食事の前にきよめの洗いをしないこともあったのです。
さらに、イエスの復活後、弟子たちはパレスチナから散らばっていきました。
ヘレニズム文化を嫌っていたユダヤ人たちはイエスをメサイヤとして受け入れることは難しかったはずです。
イエスはまず「イスラエルの家の失われた羊」のために遣わされました。(マタイ15:24)彼はユダヤ人として生まれました。律法と預言を成就するために来られました。12人の弟子たちはみなユダヤ人でした。
そして、最初期の教会はユダヤ人で構成されていました。彼らは真のユダヤ教徒だと自負し、シナゴーグで礼拝をしていました。
新約聖書の著者たちもほぼ全員がユダヤ人でした。
使徒の働き10章に出てくるコルネリオの出来事で、ペテロは「これで私は、はっきりとわかりました。神はかたよったことをなさらず。どの国の人であっても、神を恐れかしこみ、正義を行う人なら、神に受け入れられるのです。」(使徒の働き10:34-35)と宣言しました。
この時まで彼らはクリスチャンはユダヤ人からしかなれないと誤解していたのです。
それから、異邦人への伝道のために選ばれた使徒パウロが教会によって送り出されました。
福音は異教徒に伝えられ、異邦人(非ユダヤ人)クリスチャンが次々と生まれていきました。
旧約聖書や福音書に加えて使徒たちの手紙が集会で朗読され始めました。使徒たちは、割礼などのユダヤ教のしきたりは救われるための必要条件ではないとはっきりと教えていました。
ところが、ある時、ユダヤ人クリスチャンとリーダーたち(パウロやバルナバ)との間で激しい論争が起こります。「ある人々がユダヤから下って来て、兄弟たちに『モーセの慣習に従って割礼を受けなければ、あなたがたは救われない』と教えていた」からです。(使徒の働き15:1)あのエルサレム会議はこの後に開かれました。
後にパウロはローマ人への手紙でこう書いています。「人が義と認められるのは、律法の行いによるのではなく、信仰によるというのが、私たちの考えです。それとも、神はユダヤ人だけの神でしょうか。異邦人にとっても神ではないのでしょうか。確かに神は、異邦人にとっても、神です。神が唯一ならばそうです。この神は割礼のある者を信仰によって義と認めてくださるとともに、割礼のないものをも、信仰によって義と認めてくださるのです。」(ローマ3:28-30)
バルナバも文書を残していたと見られます。
バルナバの手紙は初代教会によって読まれていた手紙の一つです。(バルナバが著者かどうかはっきりとはしていませんが、アレキサンドリアのクレメントなどの初代教父がこれをバルナバの手紙と呼び、引用をしています。)
この手紙にはこう書かれています。“ところで彼らが信頼していたあの割礼は廃止された。なぜなら彼が割礼は肉体的であってはならないと言われたのに、悪しき天使が彼らを欺いたので、彼らが〔その言葉〕に背いたからである。彼らに対してはこう言われる、「主なるあなたがたの神がこう言っておられる」、(わたしはここに諱斜を見出す)、また茨の中に種をまいてはならない、あなたがたの主のために割礼を受けなさい」。そして何と言っておられるか。「あなたがたの頑な心に割礼を受けなさい、またあなたがたのうなじを頑にしてはならない」〔と言っておられる〕。別のところを取れば、「見よ、と主は言われる、すべての民は肉に割礼を受けていないが、この民は心に割礼を受けていないのである」とある。”
これらの手紙は礼拝の中で朗読されていました。
2世紀の神学者タトリアンはユダヤ人への返答でクリスチャンとユダヤ人改宗者との論争を取り上げています。
彼は、異邦人が神の恵みによってより優れた民となったこと、モーセの律法に煩わされずに神に喜んでもらえ得ること、肉の割礼や安息日、いけにえは一時的であること、代わりに霊の割礼、永遠の安息日、霊のいけにえが現れたこと、キリストは既に来たこと、イエスは来ると預言されていたキリストであること、イエスは預言を成就したことを説明しました。
以上のように、伝道の対象は「ユダヤ人だけ」から「異邦人でも」へと広がり、ユダヤ人クリスチャンの間には混乱が起こりました。このことが初代教会内に論争を生み、2世紀に至ってもそれは続いていました。
一世紀の終わりにはユダヤ教と異邦人クリスチャンとの違いは大きくなっていました。
イエスの兄弟ユダがリーダーシップを取っていたエルサレム教会はユダヤ人クリスチャンが大半でしたが、66A.D.にはユダは殉教し、クリスチャンはエルサレムを離れてしまいました。
一方で、ユダヤ教徒はローマの支配に反抗しましたが、70A.D.に神殿は破壊され、ユダヤ人は散らばって逃げざるを得ませんでした。
ローマ軍のリーダー、ポンペイは多くのユダヤ人を捕らえイタリアの奴隷市場につれていきました。ローマ皇帝のハドリアンはユダヤ人を迫害しました。彼は985の村を破壊し、58万人を殺害しました。キリスト教は違法となり、ユダヤという地方名もシリア・パレスチナへと変更されました。
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